お知らせ

富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.34

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吹き荒れる風、波立つ海。
「あれ?春先って例年こんなに大時化だったっけ?」
と驚く今日この頃です。

特に厄介なのは氷見海岸に向かって吹く北東の風。
この風が少しでも強く吹くと、氷見の海岸に沿って点在する港から、定置網へ出航しようとする船が押し戻されてしまうため、非常に危険です。
特に近頃の風速10mほどにもなる風が吹く場合は、ほとんどの漁船が出航を取りやめ、市場は開店休業状態に陥ってしまいます。

僕自身仕入れの際は風速・風向もわかる天気アプリを見てから家を出ます。
前述のような風予報を見た日の朝は、若干今日の仕入れを諦めながら魚屋を訪ねます。
店に入るなり魚屋の店主さんからは、「今日はなんもなくてすまん!」という謝罪の言葉が。

確かに売り場は閑散としていて鮮魚がほとんど無いにしても、店主さんの日頃の行いや仕入れの仕方が悪かったからそのような状況になっている訳ではないゆえに、どうしようもないもので。
しかしその魚屋さんを訪れるお客さんが口々に発する「今日は何もないのね~」という残念そうな言葉を聞くと、店主さんも申し訳なくなってしまうのでしょうね。
僕も時化の日の営業の際は、まず謝ったのち当日のメニュー内の魚種の少なさを説明しますもんね笑

出店三昧

さて、そんな大時化にも震災の影響にも負けないと、ただいまサカナとサウナは出店三昧。店の建物は液状化現象で傾き、お客さまを入れられる状況ではないのですが、内部の設備などは影響がないので、店内では調理のみを行っています。そんな料理の数々を今は氷見市外の各種イベントに持って行って販売をしており、3月は主に富山市にお邪魔しました。

震災支援のイベントから、オーバード・ホールの春の音楽フェス、新幹線延線に伴う富山駅の賑やかしイベントなどなど。
販売しながらそれぞれのイベントの盛り上がりを見ていると、寒い冬をようやく越えてきたのかなぁと感慨深くなりました。

ありがたいことにお持ちするサンドイッチやおつまみセット、カレーなどは完売で、売上と達成感を小脇に抱えながら氷見に帰ることができました。

そして4月は更に出店を加速し、富山県内を縦横無尽に駆け回ります。
富山市、朝日町、南砺市、立山町、そして氷見市。
出店の仕方も様々で、あるお店の開店記念パーティや桜の開花を祝うお祭りでのサンドイッチの販売から、他のお店を間借りして行う居酒屋営業に、コース料理をお出しするお食事会の主催まで。

普段お店を営業しているとどうしても氷見市から離れられなくなってしまいますし、ルーティンワークに追われてしまって、どうしてもイベントを主催したり参加したりということは難しくなります。逆にこんな状況だからこそ、久しぶりに富山県内の様々な場所を巡ることができ、そして様々な取り組みを行えることで、自分自身とても刺激になります。

この文章を読んでいる皆様ともどこかでお会いできたらうれしいです。
最新情報はサカナとサウナのインスタグラムにて随時告知しますので、ぜひ一度ご覧いただければ幸いです。

こんな時だからこそ

  1. こんかいわし
  2. いしる

ただ、出店して料理を販売するにも、やっぱりお魚がないことにはサカナとサウナの料理は成立しないもので。
では冒頭のような大時化の日はどうするかというと…

…ふて寝…するときもあります笑
しかし何とか気持ちを奮い立たせてなにかしら調理をしようという日は、魚の保存食や調味料を使ったソースなどを作ります。

そんな時に重宝するのが、「こんかいわし」と「いしる」。

こんかいわしは当コラムでも何度も言及している、鰯を糠漬けにした氷見の伝統的な保存食。糠を取って焼いてご飯にのせて食べるのが主な食べ方で、氷見の60代以上の人に話を聞くと、昔は昼頃に多くのお宅からこんかいわしを焼いたときの香りがしたんだとか。
当店ではクリームチーズに混ぜたり、アンチョビの代わりにバーニャカウダソースやグラタンに使ったりなど、乳製品と組み合わせることが多いです。糠の発酵の香りを乳製品がマイルドにし、かつチーズのような食欲をそそる香りに変化するからです。

そして次にご紹介するのは、「いしる」。

見た目は醤油のようですが、原料は大豆ではなくいかやいわしなどの魚介類。
能登半島で古くから作られている調味料で、魚介類を内蔵ごと塩漬けにして1年から2年の間長期間かけて発酵・熟成したのち、そこから出る液体をろ過して作られます。いか、いわし、さば、あじなど原料も様々な種類があり、それぞれの味の特徴が違います。(いかいしるは旨味が深いので煮物向き、あじいしるはスッキリした旨味なのでお浸し向きなど)。魚介類由来の旨味が非常に強い調味料ですので、当店では出汁の代わりに使うことや、様々なソースの隠し味に使うことが多いです。

その中でも人気なのが、いしりを加えたトマトソース。トマトを初めとした野菜の旨味といしりの動物性の旨味がマッチするのです。
先人の知恵によって作られた伝統的な食品を、現在の多様化した様々な料理に合わせると、新たな発見が数多くあります。伝統が今も色濃く息づく氷見に住む魚料理研究家だからこそ、そんな発見を日々続けていきたいものですね。

よし、今日も出店用の料理を作る中で、様々な実験を続けていきましょう。

魚料理研究家【昆布】

東京都葛飾区出身、1993年生まれ。
大学卒業後、大手スーパーの鮮魚部に勤務。
旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
2023年8月には、魚料理専門店「サカナとサウナ HOTEL&DINER」を開店。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。

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