お知らせ
2024.03.01

富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.33

暖かな日差しが町に燦燦と降り注ぎ、海越しの立山連峰が連日惜しみなく姿を現します。

春の訪れを予感させるような陽気ーーー
ーしかしその明朝、一転して今度は冬へと逆戻り。風雪が視界を奪い、漁船の出航を拒むような波が間断なく浜を襲います。

そんなジェットコースターのような寒暖差が身体を襲い、2月は家族で風邪をひいてしまいました。
特に息子は風邪が長引きに長引き、保育園を休むこと約3週間。
少し良くなったと思った2月後半のタイミングで東京の実家に帰省するも、心配でどこにも外出できず、看病旅行となってしまいました。

ただ実家の両親をはじめ、90歳の祖父にもひ孫の顔を見せることができて本当に良かった。
息子が「おーじじー!」と声を張り上げながら持っていた麦茶のカップを近づけ、祖父がノンアルコールビールのグラス(もともとは大酒のみですがさすがに引退)を合わせて乾杯。
なんとも言えない温かい気持ちになりました。

帰りの新幹線にて、こんな光景を見れただけでも帰省した価値があったかなぁなんて妻と語り合いながら、氷見へと戻ったのでした。

ひみしよう ぶりしよう

さて2月はその他にもう一度東京へ行く機会がありました。

「ひみしよう ぶりしよう」
という、氷見の考えるパン koppeさんとの共同でのイベント出店のためでした。

東京の国立市富士見台にある「富士見台トンネル」というシェアキッチンにて、ブリをはじめとした氷見の魚と富山・能登の酒を楽しんでもらおうという昼飲みイベントで、その他氷見の魚加工品や氷見うどん、クラフトビールの販売もしました。前日から東京入りし地元の友達と久しぶりに楽しく酒を酌み交わした後の明朝、早い時間からクール便で届いた調理済みの10キロブリを富士見台トンネルで処理し、朝11時よりイベントを開始しました。

励ましの言葉

  1. ふと気づくと外では最大10組待ちの大盛況

東京入りしてからというものバタバタとしていたので(少し昨夜の酒を引きずってもいたので)、「さぁてゆるりと始めよう…」と思っていた矢先、開店から15分後には12席ほどある客席は満員に。用意したブリのカルパッチョや、カレー、和コンフィ、更には旬の初めの氷見イワシのマリネは飛ぶように売れていき、会場は氷見の魚に舌鼓を打つ姿にあふれていました。

息つく暇なくカルパッチョ用の脂たっぷりのブリを切りに切り、用意したカレーを盛りに盛っていたら、イベント終了2時間前ほどには10キロも持ってきたブリが完売してしまいました。まだ待っていただいていたお客様には、販売用の干物やソフト昆布を使ったおにぎりを提供し、17時に何とかイベントは大団円を迎えました。終了後は疲れ果てる暇もなく、19時の終電で氷見に帰らなければならない用事があったため、急いで片づけをして挨拶もそこそこに電車へ飛び乗る始末。

そんな慌ただしい帰路の間に思い出したのは、ご来店いただいた皆さんの温かい言葉の数々でした。

富士見台トンネルの常連さんをはじめ、大学・社会人時代の仲間や同僚、富山出身で東京在住の方、これまでにサカナとサウナに宿泊していただいていた方、そしてわざわざ氷見から駆けつけてくれたサカナとサウナの常連さん。皆さんに励ましの言葉をかけていただき、その一つ一つに救われました。

被災して傾いた店の行方はまだまだわかりませんが、この言葉の数々を胸に再起を目指していきたいと思います。

氷見イワシ

  1. 大羽イワシ
  2. マリネで召し上がれ

そして話は東京から氷見へ。
3月に入るとブリの漁獲量はめっきり少なくなり、代わりに氷見イワシが最盛期を迎えています。昨シーズンに続き今年も大豊漁。
漁船はイワシが所狭しと入った網を引き揚げた際に、あまりの重さで傾いてしまってあわや沈没しそうになったとのこと。

更にイワシの大豊漁の影響は魚屋さんにも。
ある魚屋さんはイワシを1匹10円で売り、地元で話題になりお客さんが押しかけていました。

更にその様子をテレビが報じると、氷見市外からもお客さんが殺到し、用意した240㎏ものイワシが一日で完売したそう。「安売りだから大した儲けにはならん!」と魚屋さんは言いますが、大繁盛には鼻高々。
僕自身がそんな大盛り上がりの様子を見に行った際には、イワシをこれでもかと袋に詰めた人たちからの「これでこんかいわし(氷見の伝統食品である糠漬けいわし)や梅煮を作るんや!」という賑やかな話し声を耳にしました。近頃明るいニュースが少ない昨今ですが、イワシの大漁で少しでも町が活気づくのはやはり港町ならでは、といったところでしょうか。

そんな大漁のイワシの中でも貴重なのは、大きなサイズのもの「大羽イワシ」。脂のりが強く刺身にすればとろける食感で、かば焼き用に焼けばタレをはじくほどの脂がしみ出てきます。

そんな様々ある大羽イワシの調理法の中でも僕がお気に入りなのがマリネ。ハーブやニンニク、オリーブオイルと共に酢に漬け込む料理です。酢の効果によって数多く身に入り込む骨が柔らかくなり、食べやすさは抜群。脂たっぷりの身を骨に煩わされることなく丸かじりすることができます。先述の「ひみしよう ぶりしよう」でも大好評だったメニューで、ブリよりも先に売り切れてしまいました。

3月もまだまだイワシの勢いは止まりません。一人でも多くの方にこの美味しさを知ってもらうためにも、様々な場所に出店してイワシ料理をご提供していきます。
見かけた際は、ぜひお立ち寄りくださいね。

魚料理研究家【昆布】

東京都葛飾区出身、1993年生まれ。
大学卒業後、大手スーパーの鮮魚部に勤務。
旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
2023年8月には、魚料理専門店「サカナとサウナ HOTEL&DINER」を開店。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。

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