海と日本プロジェクトin富山実行委員会は、富山湾の魚と豊かな海を未来へ残すためにできることを考える学習イベント「富山湾おさかな学校」を、2022年8月18日(木)・19日(金)・22日(月)の3日間開催いたしました。参加したのは、富山県内在住の小学5・6年生17名。富山湾を代表する「さかな」を起点に、さまざまな海の課題を学びました。
「天然のいけす」と呼ばれるほど魚の宝庫である富山湾ですが、近年は地球温暖化による海水温上昇、海洋ごみの問題などによって海の環境が変化しています。富山湾の魚の漁獲量も年々不安定となっており、当たり前に獲れていた魚たちが獲れなくなる未来がやってくるかもしれません。そんな状況を少しでも良くしようと、富山湾の魚を守り、育て、未来に残すさまざまな取り組みが行われています。今回の「富山湾おさかな学校」は、体験学習やワークショップを通してそれらの取り組みを学び、次世代の子どもたちに富山湾の魚と豊かな海を大切にする心を広げることを目的に開催いたしました。
このイベントは、次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
【イベント概要】
・開催概要
体験学習やワークショップを通して、富山湾の魚と豊かな海を未来へ残すためにできることを考える学習イベント
・日程
2022年8月18日(木)・19日(金)・22日(月)
・開催場所
富山県内各所(富山市、魚津市、滑川市、高岡市、氷見市)
・参加人数
富山県内在住の小学5・6年生 17名
・協力団体
富山県農林水産総合技術センター 水産研究所、滑川高校、北日本新聞社、魚津水族館、マリンサービスバディ、パノラマレストラン光彩、ほたるいかミュージアム、株式会社TAPP、JA創作こうぼう、tototo、氷見市漁業交流文化センター、毛勝の郷 シェルピース、魚津埋没林 博物館、ハマオカ海の幸 ほか
1日目にまず向かった先は、日本最古の歴史を持つ「魚津水族館」。館内のジオラマや水槽の展示を稲村修館長に解説していただき、富山湾の特徴的な地形や魚の特徴について学びました。標高3,000m級の立山連峰から水深1,000mを超える富山湾まで、その高低差は約4,000mもあります。世界でも珍しい独特な富山県の地形が、富山湾の魚種が豊富な理由の一つであることを学びました。また、富山湾を代表する魚たちが水槽を泳ぐ姿を見て子どもたちは大興奮。「ブリは泳ぐのが早いんだね」「この魚知ってる!」などと声を上げながら、夢中でカメラのシャッターを切っていました。
そんな富山湾や富山湾の魚たちに、今起きている変化についても学びました。富山湾の海洋ごみは約8割が河川から流れ着いたものであることや、地球温暖化による海水温の上昇で、富山湾で獲れる魚の種類や量が変化していることなどを教わった子どもたち。課題意識が身についたと同時に、3日間の学びへの意欲がさらに高まったように見えました。
最後に稲村館長から「私が一番大きい問題だと思うのは、海に行く人が減っていることです。海に行かなければ海のことはわかりません。みんなもっと海に行って、海と接して、海を感じてほしい」というメッセージをいただきました。
午後から向かったのは、高岡市の「雨晴海岸」。海辺の生き物調査を通して、富山湾や海洋生物の変化について子どもたちに肌で感じてもらいます。まずは、海辺で遊ぶ際の注意点やライフジャケットの着用方法を、マリンサービスバディの西田秀幸さんにレクチャーしていただきました。安全第一を心に刻んだところで、シュノーケリングを着用し、網を片手に海の生き物を調査します。最初はなかなか見つけられず、苦戦していた子どもたち。しかし岩場へ移動すると次々に生き物を発見でき、お互いに見せ合ったりして喜んでいました。イネゴチ(魚)、ムラサキウニ(ウニ)、コブヨコバサミ(ヤドカリ)、ヒライソガニ(カニ)、スガイ(貝)など、約30分間で11種類の生き物を見つけることができました。
調査を終えたあと、魚津水族館 学芸員の木村知晴さんと泉拓朗さんに、今回発見した生き物をそれぞれ解説してもらいました。また、今回のように海の生き物を調査することは、10年後、20年後の環境の変化を知るために大切なことだとお話いただきました。泉さんは「また魚津水族館に遊びに来てください。僕たちが知っている生き物のことは何でも教えるし、わからないことは一緒に調べます」と力強く呼びかけました。
2日目の朝に訪れたのは、滑川市の「富山県農林水産総合技術センター 水産研究所」(以下、水産研究所)。ここでは、富山湾の魚を未来へ残すための取り組みについて学び、自分たちに何ができるのかを考えます。まずは前田経雄副所長から、水産研究所が行っている取り組みについて講義していただきました。「富山湾の魚を守るためには、魚を減らさない(獲りすぎない)工夫と同時に、魚を増やすための取り組みが必要です」と前田副所長。水産研究所では、魚を増やすために「栽培漁業」や「藻場の造成」に力を入れているとご紹介いただきました。子どもたちは初めて知ることばかりだったようで、終始真剣な眼差しでノートに学んだことを書き込んでいました。
講義のあとは、水産研究所内を案内していただきました。栽培漁業の一環で育てているヒラメやキジハタの稚魚のほか、生態を調査しているベニズワイガニ、富山名物「ます寿し」でお馴染みのサクラマスの水槽などを見学。ヒラメの稚魚はよく見るとお腹に黒い斑点があり、放流しても天然と見分けることができると教えていただきました。それを子どもたちが実際に見て触れることで、栽培漁業の意義を体感できた様子でした。また「将来は水産研究所で働きたい」と話す子もいて、参加した子どもたちの魚や海に関する関心の高さが垣間見えた授業でした。
続いて氷見市へ移動し、魚をさばく体験を実施しました。自分の手で魚をさばくことで、魚への親しみを持ってもらうとともに、命を育む海の大切さを感じてもらいます。さばき方を教えてくださったのは、株式会社TAPP 代表の丸山達平さん。丸山さんは近年深刻化している「魚離れ」に危機感を抱き、誰でも簡単に魚をさばける包丁「サカナイフ」を開発した方です。今回は子どもたちが実際に「サカナイフ」を使って、氷見市で獲れたフクラギの三枚おろしに挑戦しました。
まな板の前に一人一匹のフクラギが用意されると、子どもたちは少し緊張した表情に。丸山さんやスタッフに教えてもらいながら三枚おろしにできると、たちまち達成感にあふれた笑顔を見せていました。自分でさばいたフクラギをフライパンで焼いて、お弁当とともに試食。子どもたちからは「三枚おろしは難しかったけど、これから家でも挑戦してみたい」「魚は苦手だったけど、自分でさばいたものは食べることができた」などの感想が聞かれました。
魚に親しみ、命の大切さを学んだ子どもたち。今度は魚を有効活用した新しい取り組みについて学びます。教えてくれたのは、魚の皮を再利用したフィッシュレザーを開発したtototo 代表の野口朋寿さん。フィッシュレザーを開発しようと思ったきっかけや、魚や海を大切にする想いについてお話いただきました。冒頭で「魚の身はどのくらい?」とクイズを投げかけた野口さん。答えは「50%」。残り50%の頭や骨、内蔵などはほとんど捨てられていると知った子どもたちは、想像以上の多さに驚いた様子でした。同じように魚の皮も捨てられることが多く、皮の廃棄率は90%と言われているそうです。野口さんは捨てられてしまう魚の皮を使ってレザーを作れないかと試行錯誤を重ね、雑貨やインテリアとして商品化に漕ぎ着けました。
続いて、フィッシュレザーの加工工程の一部を体験するワークショップを実施。魚の皮をタンニンでなめすことで、引っ張っても簡単には破れない耐久性のある素材になることを体感しました。また、野口さんから子どもたちにフィッシュレザーの缶バッヂがプレゼントされると、早速かばんや帽子につけて喜ぶ様子が見られました。「海の恵みを無駄にしない、持続可能なものづくり」を大切にしているという野口さんのお話には、アイデアや発想力を得るヒントがたくさんありました。