お知らせ
2023.07.03

富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.25

だらだらと降り続ける雨は上がり、激しい日差しとゲリラ豪雨が日常を襲う季節がやってきました。

そう、夏なんです。

 

朝のお散歩へ

乱立したビルによる都会のヒートアイランド現象なんてものとは無縁の、港町氷見の夏は楽勝…。なんてことはなく、日差しをさえぎる高い建物がないまちなかでは太陽は直接肌を焼き、かつ富山特有の湿気の多さが体感温度を上げています。
ただ半袖半ズボン、サンダルなんてラフな格好も許されるおおらかな季節(海の近くだしなんだかサマになって見えてたりして)なので、朝の準備が楽になるのがうれしいところ。

最近は起きたらサクッと着替えて、今月で一歳になった息子と朝のお散歩へ出かけます。

トンビやウミネコを見るとすぐ指を指すようになった息子を抱っこしながら5分ほど歩くと、もうそこは富山湾。

 

「海だねー大きいねー」なんて声をかけながら海辺を歩いていると、息子は打ち寄せる波の様子や音に目を見開きながら反応をしています。
そんな様子を見ていると、東京下町生まれの自分にはこんな幼少期の経験はなかったなぁ、実家の近くにあった中川(こち亀主題歌にも出てくる川)なんて気にしたこともなかったなぁ、なんて物思いにふけっちゃったりして。
そんな時間もつかの間で、「もっと海に近づきたい!あっちの草むらに行きたい!」なんて指さしアピールする息子に追い立てられながら、バタバタと朝の散歩は進んでいくのです。

こんな風に富山湾のすぐそばに住んでいるからこそできる経験が、彼にはこれからたくさん待っています。これからいっぱい富山の魚を食べさせて、たくさん海水浴に行こうと思うようになった、父2年目の夏でございます。

オープン日は海の日に。

さてそんな父としての成長と時を同じくして、前回もお話しした僕の新たなお店「サカナとサウナ」の改装工事にも進展が。
一階の飲食店の工事はほぼ終わり、内装の世界観が見えてきました。
壁一面のタイルや特注のカウンター、これまでの頂き物や集めたものを並べる吊戸棚。店内はどの部分をとっても、一つ一つ自分の想いがあるもので埋め尽くされています。

そしてこの度、2階のサウナホテルの完成よりも前に、1階の飲食部門を今月オープンします。
オープン日は17日㈪の海の日。富山湾の景色とそこから獲れる魚に惚れて移住した僕にとっては、これ以上のない日です。
サウナホテルは只今工事の真っ最中で、8月下旬のオープンを予定していますので、そちらの進捗もお楽しみに。

 

カレーの試作

それゆえ、現在は提供する料理の試作に追われる日々。
素晴らしく仕上げてもらった建物に負けないような料理を作らないといけないと、日々自分にプレッシャーをかけながら様々な料理を作っています。

特に力を入れているのは、カレーの試作。
前の店ではランチはサンドイッチをメインに営業していましたが、新店ではカレーの提供も始めることにしました。コンセプトは「とにかく魚がうまく感じるカレー」。
スパイスの調合や野菜などの具材の選定も重要ですが、とにかく魚がうまい!と思ってもらえるようなカレーを目指しています。
その中で魚から取るだし汁をどうにかカレーにできないかというアイデアを考え出した直後、氷見の郷土料理の中に伝統的な魚だしの汁物があることを思い出しました。

「かぶす汁」

その名も「かぶす汁」。

内臓や鱗をとった様々な魚を煮込んでだしを作り、そこに味噌を溶き入れる豪快な料理で、もともとは伝統的な漁師料理です。

昔の漁師は毎日マルベントウ(ヒノキのわっぱ重)に、このかぶす汁を入れるチャンバチ(氷見の方言で茶碗鉢)とごはんをつめて船へと乗り込みました。
漁場で定置網を引き揚げ船への魚の積み込みを終えた後、漁港へ帰る途中に船上に設置されたカマドと大きな鍋で小さな魚を一緒くたにして煮込んで味噌汁にしたのです。それをチャンバチに盛り付け、持参したごはんと共に食し、朝食としていました。
残ったかぶす汁は漁師がマルベントウの中に入れ家へ持ち帰り、その家族の朝食にもなったと伝えられています。

ちなみに「かぶす」とは「分け前」という意味。あまりにも小さい魚は市場に卸すのが難しく、その分は漁師への「分け前」となり、かぶす汁としてふるまわれました。

小さな魚も無駄にはしない、現代で言うところのSDGsに則った料理であったことがわかります。

伝統を受け継ぐ料理

そんなかぶす汁の伝統を受け継ぐ料理をなんとかかんとか試作中。昆布や野菜の力も借りつつ、非常に滋味深い魚のだし汁を作り、同じく海に面している東インドのカレーを参考にしながらスパイスと合わせています。

先日試食でカレーと共に魚の切り身を食した際、とても強いうまみを感じました。
魚出汁ベースのカレーだからこそ魚を引き立てるのかとても驚いたことを覚えています。
さらに鰹節や三つ葉を加えると和風に、レモンやショウガを加えれば東インド風に様変わり。

いやはや可能性たっぷりの魚カレーができそうです。

どうぞお楽しみに。

 

 

魚料理研究家【昆布】

本名: 近森光雄、1993年東京都下町生まれ。
大学卒業後、魚屋に3年半勤務。旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。
サウナを愛するあまり、スーパー銭湯の近くに住んでいる。

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